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組織開発・職場改善

人的資源とは?人的資本との違いと企業が直面する課題・活用法をわかりやすく解説

企業経営において「ヒト」は最も重要な資源の一つです。近年は「人的資源」だけでなく「人的資本」という言葉も注目され、両者をどう捉え、経営戦略に活かすかが大きな課題となっています。

この記事では、人的資源の定義と人的資本との違いを整理し、日本の企業が直面する背景や課題を解説します。さらに、公平な人事評価制度や働きやすい環境づくり、データ活用や人材育成など、人的資源を有効に活かす具体的な方法を紹介します。

人的資源とは?定義と基本的な考え方

人的資源(じんてきしげん)とは、企業経営における「ヒト」という資源のことです。いわゆる「ヒト・モノ・カネ」の経営資源の一つとして位置づけられ、組織の発展に欠かせない要素とされています。企業で働く従業員一人ひとりが人的資源にあたり、その能力や労働力は事業活動を支える重要な原動力です。

従来、この「人的資源」という言葉には、社員を会社が消費すべき資源、つまりコストとして捉える考え方が根底にありました。人件費を経営上のコストと見なし、可能な限り抑えようとする発想につながりがちだったのです。

なお、「人的リソース」と呼ばれることもありますが、意味は人的資源と同じく、企業が活用できる人材、つまり従業員そのものを指します。「ヒト」は企業にとって原材料や資金と並ぶ貴重なリソースですが、その扱い方次第で成果が大きく変わる特性があります。

近年では、人的資源の捉え方が見直されつつあります。単なるコストではなく、従業員の持つ知識やスキルこそが企業価値を高める資本だという考え方が広がっているのです。その背景には、人材を「人的資本」として重視する経営戦略の台頭があります。

人的資源と人的資本の違い

人的資源と人的資本は、人材を「コスト」と見るか「投資」と見るかという点で異なります。違いを意識することで、人材育成やエンゲージメント向上につながり、企業価値を高めることができます。

人的資源(Human Resources)と人的資本(Human Capital)の概念的な違い

人的資源と人的資本は、人材に対する見方が対照的な概念です。人的資源では従業員をコストとして捉えるため、人件費はできるだけ削減すべき対象となりがちです。

これに対して人的資本は、人材への支出を企業の成長に不可欠な投資とみなす考え方です。社員の教育や研修に積極的に取り組むことで、従業員の能力が向上し、それが将来的に企業にも大きなリターンをもたらすと期待します。

企業が両者を区別して考えるメリット

企業が人的資源と人的資本を明確に区別して捉えることには多くのメリットがあります。第一に、従業員を資本と見れば教育・研修への投資を惜しまなくなり、結果として社員の能力向上やイノベーション創出につながります。人材育成によって生産性が上がり、長期的な企業成長が期待できるでしょう。

第二に、人を大切にする企業姿勢は従業員のエンゲージメントや愛着度合いを高め、離職防止や優秀な人材の獲得にも有利に働きます。実際、若い世代ほど成長機会を提供してくれる企業を好む傾向があります。

さらに、人的資本を重視することは対外的な評価にも直結します。近年はSDGsやESG投資の観点から、企業の人材への取り組みが投資家にも注目されています。

なぜ混同されやすいのか

人的資源と人的資本という二つの言葉は、その響きや概念が似ているため混同されやすいのも事実です。特に「人的資本」という考え方が注目され始めたのは比較的最近であり、それ以前は人材に関する議論で人的資源という用語が主に使われてきました。

そのため、今でも両者を明確に区別せずに使っているケースが見受けられます。また、現実の経営では人材をコスト面と投資面の両方から考慮する必要があるため、場面によっては両者の境界が曖昧になることもあります。

加えて、日本語では一般的に「人材」という言葉が使われ、人的資源と人的資本の違いが意識されにくい傾向もあります。英語では前者が「Human Resources」、後者が「Human Capital」と区別されますが、日常会話では区別せず「人材」と一括りにされる場合も多いのです。こうした要因から、人事や経営に携わる人以外には両者の違いが伝わりづらく、混同されがちだと言えるでしょう。

人的資源が注目される背景と企業が直面する課題

少子高齢化による人材不足や働き方の多様化などにより、人的資源の有効活用は企業にとって喫緊の課題となっています。

少子高齢化と人材不足の深刻化

少子高齢化に伴う労働力人口の減少は、日本企業にとって非常に深刻な課題です。生産年齢人口(15~64歳)は年々減少しており、そのペースは予想以上に速まっています。2019年には年間出生数が大きく落ち込み、日本の総人口は1年で約51万人減少しました。その結果、生産年齢人口は1年間で推計30万人以上も減ったとされています(出典:コニカミノルタ)。

日本の少子高齢化は今後も進むと予測されており、年を追うごとに労働力不足が深刻化するでしょう。既に現時点でも、多くの業界で人手不足が顕在化しています。労働力人口が大幅に減少すれば、企業の事業継続や成長にも大きな支障をきたしかねません。そのため、限られた人的資源をいかに有効活用するかが、これまで以上に重要になっています。

働き方の多様化とエンゲージメント低下

リモートワークやフレックスタイムなど働き方の多様化は、従業員に自由と柔軟性をもたらしました。一方で、直接コミュニケーションの減少によって帰属意識やチームの一体感が希薄化し、エンゲージメントの低下を招いています。

在宅勤務やハイブリッドワークが定着した現在、人材マネジメントは一層難しくなりました。顔を合わせる機会が少ない環境下で社員のモチベーションや結束力を維持・向上させるには、新たな工夫が必要です。

適材適所の配置が難しい理由

社員の能力や適性を完全に把握するのは難しく、特に大企業では各人の強みや希望が埋もれがちです。また、人事配置の判断がデータではなく主観や慣例に頼るケースもあり、適材適所を阻む一因となっています。

次に、必要とされるスキルが急速に変化している点も課題です。デジタル化で新たな知識が求められても、既存社員に備わっていなければ即戦力を配置できません。スキルのミスマッチが生じやすくなっています。

さらに、日本の終身雇用・年功序列の慣行も影響しています。定期異動などで各人の適性より年次や序列が優先される傾向があり、適材適所を実現しにくい側面があります。

人的資源を人的資本へ高める具体的な活用戦略

人的資源を資本へと高めるためには、公平な評価や環境整備、データ活用、教育研修など総合的な取り組みが必要です。

公平で透明性のある人事評価制度

人事評価制度が公平かつ透明であることは、社員の努力を正しく認めることにつながり、結果的にモチベーション向上の原動力となります。逆に評価基準やプロセスが不明瞭だと、社員は自分の頑張りが正当に評価されていないと感じ、不満や離職の原因にもなりかねません。そこで、評価項目や基準を明文化し社員と共有することが重要です。

また、評価の過程も透明性を高め、誰がどのように評価しているのかを開示すると、公平さへの信頼が高まります。例えば、自己評価・上司評価・第三者評価を組み合わせたり、評価結果についてフィードバック面談を実施したりすることで、公平性と透明性を担保できます。納得感のある評価制度は社員の成長意欲を引き出し、ひいては企業全体のパフォーマンス向上につながるでしょう。

働きやすさを高める制度や福利厚生

社員が安心して働ける環境を整えることは、離職防止やモチベーション向上に直結します。特に勤務制度や福利厚生は、日々の働きやすさを左右する重要な要素です。具体的な施策を表で整理しました。

施策 内容 期待できる効果
柔軟な勤務体系の導入 テレワークやフレックスタイム制度により、社員が自分に合った働き方を選択可能にする ワークライフバランスの向上、生産性の最大化
休暇・育児支援の充実 有給取得促進、産休・育休制度の拡充、男性育休の取得支援 子育て世代の働きやすさ確保、長期的な人材定着
健康管理・メンタルヘルス支援 定期健康診断、ストレスチェック、カウンセリング窓口の設置 健康リスク低減、安心して働ける職場づくり
福利厚生サービスの拡大 社員食堂、福利厚生クラブ、在宅勤務手当などの提供 社員満足度向上、帰属意識の強化

こうした制度を組み合わせて整備することで、社員一人ひとりが安心して働き続けられる環境が実現します。結果として企業全体のパフォーマンスや持続的成長にもつながっていきます。

データ活用(HRテクノロジー)による人材マネジメント

近年は、人事領域でもデータ活用が進んでいます。HRテクノロジーの発展により、社員に関する様々なデータを収集・分析して人材マネジメントに活かす企業が増えてきました。

例えば、人事評価結果やスキル情報、適性検査や従業員アンケートのデータを蓄積・分析することで、各社員の強みや傾向を可視化できます。その結果、適材適所の配置や優秀な人材の特定、離職リスクの予測などに役立てることが可能です。

データに基づく客観的な判断は、公平性を高めるだけでなく、人事施策の精度向上にもつながります。勘や経験だけに頼らず、エビデンスに基づいて人材をマネジメントすることが、これからの時代に求められています。

教育・研修(リスキリング)を通じた人材育成

従業員の能力開発に継続的に取り組むことも、人的資源の価値を高める上で重要です。社員への教育・研修への投資は人的資本を向上させ、企業の持続的成長につながります。新入社員研修や管理職研修はもちろん、デジタルスキルや語学習得の支援、eラーニングや社外セミナー受講支援など、社員が新たな能力を身につけ直す機会(リスキリング)を提供する企業が増えています。

社員にとって自分の市場価値を高められる環境は魅力であり、成長を実感できればエンゲージメントも高まります。企業側にとっても、新たなスキルを持った人材を内部で育成できれば、人材不足の時代において大きな戦力となるでしょう。教育・研修を通じて社員のポテンシャルを引き出し、人的資源を人的資本へと高めていく姿勢が、長期的な企業の成長につながります。

まとめ

人的資源とは企業にとって欠かせない「ヒト」の経営資源であり、その価値の捉え方によって経営戦略も変わります。単にコストと見なすのではなく、人材を人的資本として捉え積極的に投資・育成することが、少子高齢化や働き方の変化が進む現代においては不可欠です。

人的資源を有効に活かすため、公平な評価制度や働きやすい環境づくり、データに基づくマネジメントや教育研修の充実といった取り組みを総合的に進めていく必要があります。人を大切にし、その能力を最大限に引き出す企業こそが、これからの時代に持続的な成長を遂げることでしょう。

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