アサーティブコミュニケーションとは?意味や職場でのメリットやトレーニング方法も解説
アサーティブコミュニケーションとは、自分の意見を率直に伝えつつ相手も尊重するバランスの取れた対話スキルです。職場での人間関係改善やメンタルヘルス向上、生産性アップにつながるとして注目されています。
この記事では、アサーティブコミュニケーションの意味や職場で得られるメリット、具体的なトレーニング方法の例まで幅広く解説します。
「職場で上司に言いたいことを言えずに悩んでいる」「部下に攻撃的と言われがちで困っている」といった方にとって、実践のヒントが得られる内容になっています。
目次
アサーティブコミュニケーションとは?
アサーティブコミュニケーションとは、自分の意見や気持ちをしっかり伝えながらも相手の意見を尊重するコミュニケーション手法です。語源の「アサーティブ(assertive)」は「断言する」「自己主張する」という意味ですが、決して一方的に主張を押し通すことではありません。
自分も相手も大切にし、攻撃的でも受動的でもない適切な主張を行う点に特徴があります。お互いを尊重し合い、対等な立場で意見交換をすることで双方にとって有益なWin-Winの関係を築くことが目的です。つまり、両者を尊重しながら、自分の考えもしっかり伝えることのできるコミュニケーションと言えます。
アサーティブコミュニケーションが職場で注目される背景
アサーティブコミュニケーションは1970年代に米国で体系化が進んだ手法で、現代の職場環境で再び注目を集めています。背景には、社会や働き方の変化があります。
注目される主な理由は次の4点です。
- ダイバーシティと新しい働き方への対応
- 上司と部下の関係改善
- メンタルヘルスへの対応
- チームワークとイノベーション
まず、ダイバーシティやリモートワークの普及により、異なる価値観を持つ人が協働する機会が増えました。オンライン環境では誤解が生じやすいため、アサーティブな伝え方で摩擦やすれ違いを防ぐことが求められます。
また、従来のように上司が一方的に指示し部下が萎縮する関係では、職場の風通しが悪くなります。アサーティブコミュニケーションを意識すれば、上下関係にとらわれず対等な立場で意見を交わせ、信頼関係を深められます。
さらに、社員が意見を言えない環境はストレスを高め、メンタルヘルスの悪化にもなりかねません。互いに尊重し合える雰囲気を整えれば、自然な交流が生まれ、心の安定にもつながります。多様な人材が集まる組織では心理的安全性の確保が重要です。アサーティブな関係性が築かれることでチームワークが強化され、モチベーションや新しいアイデアが創出されるでしょう。
アサーティブコミュニケーションの4つの柱
アサーティブコミュニケーションには、実践の基盤となる4つの考え方があります。これを「4つの柱」と呼び、行動や発言を支える基本姿勢として紹介されています。
| 柱 | 意味 | 実践ポイント |
| 誠実 | 自分と相手に正直であること | 相手に迎合せず、自分の考えも丁寧に伝える |
| 率直 | 思っていることを飾らず伝えること | 主語を「私」にして自分の感情を明確に述べる |
| 対等 | 相手を上下で見ずに同じ目線で向き合うこと | 威圧も卑屈も避け、同じ立場で意見交換する |
| 自己責任 | 発言や行動の結果を自分で引き受けること | 言わなかったことも含め、自分の選択として受け止める |
1. 誠実な態度を貫く
誠実さとは、自分にも相手にも正直であることです。意見が食い違った場合でも、相手に合わせて自分の考えを曲げてしまうのは自分の本心に反する行動であり、逆に相手を無視して自分の意見だけ押し通すのは誠意を欠きます。
お互いの価値観や意見を尊重しつつ、自分の考えも伝えることで、冷静で建設的な話し合いが可能になります。
2. 率直に自分の考えを述べる
率直さとは、飾らずに思っていることを伝えることです。主語を「私」にして、自分の気持ちや考えを明確に示すと誤解が減ります。
例えば「私はこの状況に困っています」と言えば、相手も受け止めやすくなります。配慮のある率直さが信頼につながります。
3. 対等な姿勢を保つ
対等とは、相手を上下で見ずに同じ立場で接することです。
ビジネスの場では立場の差がありますが、コミュニケーションにおいては卑屈にも威圧的にもならず、同じ目線で意見交換することが重要です。その意識が、健全で対等な対話を生み出します。
4. 自己責任を引き受ける
自己責任とは、自分の発言や行動の結果を引き受ける姿勢です。うまくいかないときも、相手だけでなく自分の伝え方に問題がなかったか振り返ることが大切です。
言えなかったことも含めて「自分の選択」と捉えることで、主体的な対話ができるようになります。
アサーティブではない3タイプの特徴
アサーティブコミュニケーションを理解するためには、反対のスタイルを知ることも大切です。ここでは、アサーティブではない3つのタイプを整理しました。まずは全体像を表で確認しましょう。
| タイプ | 特徴 | 問題点 |
| 攻撃的(アグレッシブ) | 自分の意見を強引に押し通し、相手を無視する | 相手との関係が悪化し、孤立しやすい |
| 受け身的(ノンアサーティブ) | 対立を避けるために意見を言わず、相手に従う | 不満が蓄積し、突然爆発するリスクがある |
| 作為的(パッシブアグレッシブ) | 表面上は受け身だが、陰で相手を操作しようとする | 信頼を失い、人間関係が悪化する |
以下ではそれぞれのタイプについて詳しく解説します。
1. 攻撃的(アグレッシブ)の特徴
攻撃的なコミュニケーションは、自分の意見や要求を強引に押し通し、相手の意見を軽視してしまうスタイルです。背景には「相手を自分の思い通りに動かしたい」という欲求があり、共感や配慮が不足しがちです。
例えば、部下に対し「何をやっているんだ、もっと頑張れ!」と頭ごなしに叱責するケースが当てはまります。このタイプは一時的に自分の意見を通せても、関係が悪化して孤立しやすいという問題があります。
2. 受け身的(ノンアサーティブ)の特徴
受け身的なコミュニケーションは、対立を避けるあまり自分の意見を言えず、相手に従ってしまうスタイルです。心の中では「嫌われたくない」「傷つきたくない」という思いが優先され、相手の反応を過度に気にしています。
会議で反対意見があっても「みんながそう言うなら…」と黙って従うケースが代表的です。この態度を続けると不満やストレスが蓄積し、突然爆発して大きな衝突を招くリスクがあります。また周囲からは「何を考えているかわからない人」と見なされ、関係構築が難しくなる場合もあります。
3. 作為的(パッシブアグレッシブ)の特徴
作為的なコミュニケーションは、一見受け身のように見えて、実際には相手を陰で操作しようとするスタイルです。露骨に強い主張はせず、遠回しな言葉や裏での行動によって状況を自分に有利にしようとします。
例えば、本人の前では何も言わず、周囲にネガティブな噂を広めて相手を孤立させるといった行動です。一見穏便に見えますが、実際には間接的で不誠実な行動であり、信頼を損ねて人間関係を悪化させる原因になります。
ビジネス現場で得られる7つのメリット
アサーティブコミュニケーションは、人間関係の改善や業務効率の向上などビジネスの現場で大きな効果があります。ここでは代表的な7つのメリットを整理しました。
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以下では、それぞれのメリットを具体的に解説します。
1. 社内コミュニケーションの活性化
互いに意見を率直に言い合えるアサーティブな職場では、日常のコミュニケーションが活発になります。上司や同僚に遠慮して言いたいことを我慢するシーンが少なくなるため、情報共有や意思疎通が円滑に行われます。
その結果、部署内外で課題やアイデアがタイムリーに共有され、コミュニケーション不足によるミスやトラブルを防止する効果も期待できます。
2. 上司と部下の関係改善
相互尊重に基づくコミュニケーションは、上下関係にもメリットがあります。上司が一方的に指示・叱責する関係や、部下が萎縮して意見を言えない関係は仕事に悪影響があります。
アサーティブコミュニケーションを取り入れることで、上司も部下も対等な立場で率直に話せる信頼関係が構築されます。こうした良好な上下関係が社内に広がれば、組織全体のコミュニケーションが活性化し風通しの良い職場を実現できます。
3. メンタルヘルスの安定
アサーティブな職場では従業員の精神面にもメリットがあります。自分の意見を言えずに我慢している状態が続くと、人は強いストレスを感じます。反対に、言いたいことを攻撃的にぶつけて人間関係が悪化するのもストレスの原因です。
アサーティブな環境では社員一人ひとりが適度に自己主張できるため不要な我慢や衝突が減り、ストレスが溜まりにくくなります。その結果、社員のメンタルヘルスが良好に保たれ、心身ともに健康的に働ける環境になります。
4. 生産性の向上
コミュニケーションの質向上は業務効率や生産性にも直結します。アサーティブな対話ではお互いの意思確認が丁寧に行われるため、仕事に必要な情報共有や役割分担の調整がスムーズになります。
例えば、曖昧な指示や思い込みによる行き違いが減り、ミスややり直しを抑えることが可能です。結果として業務効率が上がり、チーム全体でこなせる仕事量が増えると期待できます。
5. 離職の抑制
人間関係の悪化は社員の離職理由として非常に多いものです。上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかずストレスを感じる職場では、優秀な人材ほど辞めてしまう傾向があります。
アサーティブコミュニケーションが浸透した職場では、良好な人間関係が保たれるため従業員の離職率が下がると考えられます。社員が「ここなら自分の意見も尊重してもらえる」と感じられる職場は居心地が良く、社員エンゲージメント(組織への愛着心)も高まり離職防止に効果を発揮します。
6. ハラスメントの予防
攻撃的で一方的なコミュニケーションが横行すると、パワハラ・モラハラなど職場でのハラスメント問題を招きかねません。
アサーティブコミュニケーションが浸透すれば、相手の気持ちに配慮した伝え方が当たり前になるため不必要なハラスメントが発生しにくくなります。上司も部下も率直かつ配慮ある表現を心がければ、誤解や傷つけ合いを防げるでしょう。
7. 働きやすい環境づくり
前述したような複数の要素が組み合わさり、アサーティブコミュニケーションは職場の働きやすい環境づくりにも直結します。社員それぞれが自分の価値観や考え方を尊重されていると感じられるため、心理的安全性が高くなります。
意見の言いやすさや人間関係の良さは職場満足度を高め、誰もが安心して力を発揮できる職場になります。結果的に人材の定着や採用にもプラスに働き、好循環が生まれるでしょう。
アサーティブコミュニケーションのトレーニング方法
アサーティブコミュニケーションは意識すれば誰でも実践できますが、確実に定着させるには繰り返しの練習が必要です。自己流のままでは誤解を招く恐れもあるため、体系的に学ぶことが効果的です。ここでは代表的な4つのトレーニング方法を紹介します。
目的と相手像の確認
会話の前に「自分が何を伝えたいのか」「相手にどう理解してほしいのか」を整理します。さらに相手の状況や性格を踏まえて伝え方を調整すると、誤解を避けられます。
例えば忙しい上司には要点を簡潔に伝えるなどの工夫です。事前に目的と相手像を確認することで、冷静かつ効果的なコミュニケーションが実現できます。
DESC法
DESC法とは「Describe(事実の描写)」「Express(感情の表現)」「Specify(提案)」「Choose(合意)」の4ステップで構成される方法です。
- D(Describe):客観的な事実を伝える
- E(Express):自分の感情や考えを表現する
- S(Specify):相手に求める行動や提案を示す
- C(Choose):合意や次の行動を確認する
例えば、「最近の納期遅延(事実)」→「困っている(感情)」→「優先順位を調整しよう(提案)」→「協力する(合意)」のように進めるイメージです。この組み立てにより、感情的にならず論理的かつ配慮ある主張ができます。
アイメッセージ
アイメッセージとは「私は〜と感じています」のように、主語を「私」にして伝える方法です。「あなたは間違っている」ではなく「私はこの点に不安を感じています」と言い換えることで、相手を責めずに本音を伝えられます。
ユーメッセージ(あなた主体)よりも相手が受け止めやすく、建設的な対話につながります。実践しやすいので、日常会話から練習すると効果的です。
研修やロールプレイ
専門的な研修やロールプレイに参加することで、自分の癖を客観的に知り改善できます。グループワークでシナリオを基に練習したり、トレーナーからフィードバックを受けたりすることで、短期間でも大きな学びが得られます。
組織全体で研修を取り入れれば、職場全体のコミュニケーション改善にもつながりやすくなります。
まとめ
アサーティブコミュニケーションとは、自分と相手の双方を尊重しながら意見を伝え合うバランスの取れた手法です。職場に導入すれば、社内コミュニケーションの活性化、上司と部下の関係改善、メンタルヘルス向上、生産性向上、離職防止、ハラスメント予防など多くのメリットが得られます。
一方で、強すぎる表現が攻撃的に受け取られる、すべての場面で最適とは限らない、習得には時間がかかるといった注意点もあります。これらを理解しつつ、目的の整理・DESC法・アイメッセージ・研修などを活用して段階的に実践していくことが大切です。
互いの意見や感情を尊重しながら率直に伝え合える風土が根付けば、職場はより働きやすく、生産的で健全な環境へと変わります。アサーティブコミュニケーションは、個人だけでなく組織全体を成長させる重要なスキルなのです。


